ハインリヒ・フォン・クライストによる物語「チリの地震」(6)
目覚めると太陽はすでに天高く、彼らは近くにほかの家族がいくらかいるのに気がついた。ひとびとは火をおこし、簡単な朝食を用意していた。
ちょうどヘロニモも、どうやって自分の家族に食べ物を持ってきてやろうかと考えていたが、そのとき身なりのきちんとした若い男が、腕に子供を一人抱き、ホセファのもとまでやってきて、慎み深く尋ねるのだった、この可哀そうな子に、母親は怪我をしてあの木の下で横になっていますから、すこしのあいだお乳をあげてもらえませんか。ホセファがやや動揺したのは、彼が知人だとわかったからだったが、彼の方はその動揺を誤解して、さらに続けた、ほんの瞬間でいいのです、ドニャ・ホセファ、この子はわたしたち全員を不幸にしたあの時刻から何も口にしてないのです。そこで彼女は言った、「わたしが黙ってしまったのは――別の理由からです、ドン・フェルナンド。こんなおそろしいときですから、何を所有していようと、それを分け与えることを拒む人などいないでしょう。」
そしてこの小さなよその子を受け取り、自分の子は父親に渡して、胸に寄せた。ドン・フェルナンドは善意に感謝して訊ねた、みなさんもわたしと一緒にあちらの集まりに加わりませんか、ちょうど今、火のそばに簡単な朝食が用意されていますから。
ホセファは、お申し出、わたしは喜んでお受けしますと答え、彼のあとに従い、ヘロニモも異議はなかったので、フェルナンドの家族のもとへ向かった。そこで彼女は、心から温かく、ドン・フェルナンド夫人の二人の妹に、気品ある若い婦人と聞き知っていたが、迎えられたのである。ドニャ・エルヴィーレ、ドン・フェルナンドの奥方は、両足に大怪我をして大地に横たわっていたが、ホセファを、栄養不足の息子がその胸に抱かれているのを目にして、愛想良く招き寄せ、腰を下ろさせた。ドン・ペドロ、ドン・フェルナンドの義理の父も、肩に怪我をしていたが、ホセファに心をこめて会釈した。
――ヘロニモとホセファの胸に奇妙な思いが芽生えた。自分たちがこれほど親しみと善意をもって扱われるのを目にすると、過去のことをどう考えたらいいのかわからなかった、刑場を、牢獄を、鐘の音をどう考えたらいいのかわからなかった。夢を見ていただけなのだろうか? それはまるでひとびとの心が、あの恐ろしい衝撃の轟音に満たされて以来、しずめられたかのようだった。ひとびとは、あの衝撃以前の記憶に遡ることができなかったのである。
――ヘロニモとホセファの胸に奇妙な思いが芽生えた。自分たちがこれほど親しみと善意をもって扱われるのを目にすると、過去のことをどう考えたらいいのかわからなかった、刑場を、牢獄を、鐘の音をどう考えたらいいのかわからなかった。夢を見ていただけなのだろうか? それはまるでひとびとの心が、あの恐ろしい衝撃の轟音に満たされて以来、しずめられたかのようだった。ひとびとは、あの衝撃以前の記憶に遡ることができなかったのである。
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