2010年9月22日水曜日

「チリの地震」(3)

ハインリヒ・フォン・クライストによる物語「チリの地震」(3

ヘロニモはひとびとのなかへ混じって行った、ひとびとはいたるところ、せわしなく私財を確保しつつ市門から飛び出していて、彼はおそるおそる、アステロン家の娘のことを、その死刑執行がなされたかどうかを訊ねた。しかし一人として詳細を聞かせる者はなかった。ある女が、うなじを地面につけるほどの恐ろしい量の食器を背負い、子供を二人胸にぶら下げながら、通りすがりに、まるで見て来たかのように言った、あの娘は首を刎ねられたよ、と。

ヘロニモは向きをかえた。時間を考えれば彼も刑の執行は疑えなかったので、あるひとけのない森に腰をおろすと、そこで苦痛に身をゆだねた。彼は自然の破壊力があらためてわが身に襲いかかってほしいと願った。彼自身がつかめなかった、なぜ自分は死を、苦悩に満ちた魂が探し求めていた死を、まさにそれが全方位から救いに来てくれたような瞬間に、みずから逃れてしまったのか。彼は、いまこの樫の木が根を失い、梢が倒れかかってきても一歩も動くまいと決意した。

さてその後、泣くだけ泣くと、熱い涙の中からふたたび希望が湧いてきたので、彼は立ち上がり、あらゆる方角に野原を歩きまわった。ひとが集まる山の頂はどれでも訪れ、避難の大河がなおうごく全ての道でひとびとに近づいた。女の服が風に揺れれば震える足で向かったが、どれ一つ愛するアステロン家の娘を包んでいなかった。

太陽が傾き、太陽とともに彼の希望も沈みかけたころ、ある岩のへりを歩いていくと、わずかなひとたちしかいない広い谷への視界が開けた。彼はどうするか決めかねたまま、ひとつひとつの集団のあいだを歩き抜け、ふたたび別の方向へ向かおうとしたまさにそのとき、谷を潤す湧水のそばに突然一人の女を目にした、女はせわしげに流れで子供のからだを洗っていた。彼の心はこの光景に躍りあがった。期待に満ちて岩を飛び降り、彼は叫んだ、ああ聖母さま、聖なるあなた! そしてそれがホセファであることを認めたのは、彼女が物音におそるおそる振り向いたときだった。いかなる幸福感とともに二人は抱き合ったことだろう、天の奇跡が救ってくれた、この不幸な二人は!

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