ハインリヒ・フォン・クライストによる物語「チリの地震」(4)
ホセファは、死へ向かい、すでに刑場の近くにいたのだが、そのとき轟音とともに建物が突然崩れてきて、引き回しの行列が散り散りになったのだった。彼女は恐ろしさのあまり、まず直近の市門へ走ったが、すぐに正気を取り戻すと、向きを変え、修道院へと急いだ。小さな、頼る者もないわが子が残されていたのである。
彼女は修道院全体がすでに炎に包まれているのを目にした。そしてあの修道院長が、ホセファとの最後の瞬間、赤子の世話を約束していたのだが、今まさに叫んでいた、門の前で、助けを求めて、誰か赤子を救い出してくれと。ホセファは飛び込み、向かってくる煙にも怯まず、四方八方が崩れる建物を進み、まるで天使の庇護を受けたかのごとく、赤子と一緒に無傷で正面から出てきた。驚く修道院長の腕に抱きつこうとしたそのとき、修道院長は、修道女ほぼ全員とともに、倒れてきた修道院の切妻に潰され、不名誉なかたちで殺された。ホセファはこの恐るべき光景に震えた。修道院長の目をさっと閉じてやると、逃げた、恐怖に満たされ、大事な男の子を、天がもう一度贈ってくれたから、この破滅から逃れさせようと。
数歩も行かないうちに大司教の死体にも出会った、潰れた死体が教会の瓦礫の中から引きずり出されたところだった。副王の宮殿は沈んでいた、判決の下った裁判所は燃えていた、かつての父の家は湖となって煮え立ち、赤味を帯びた湯気を上げていた。ホセファは力をふりしぼり、正気を保った。嘆きを胸から払いのけ、勇気をもって、収穫物とともに通りから通りへと進んだ、そしてすでに市門に近づいたそのとき、ヘロニモが悲嘆に暮れた監獄が瓦礫に埋まっているのを目にした。この光景に彼女はよろめき、正気を失い町角に倒れそうだったが、まさにその瞬間、背後の建物が倒れてきて、数度の揺れですでにもろくなっていたのだが、驚愕に力づけられ、ふたたび追い立てられるのだった。彼女は子供にキスをし、目から涙を拭い、もはや周囲の惨状を気にとめることもなく、市門に辿り着いた。外へ出て振り向き、すぐに結論付けた、瓦礫と化した建物の住人が必ずしも下敷きになったとは限らない。
彼女は最初の分かれ道で立ち止まり、この世で小さなフィリップの次に愛しいあの人があらわれはしないかと待った。彼女は進んだ、誰も来ず、往来が激しくなったからである、先まで行き、そしてまた振り向き、待った。たくさんの涙を流しながら、松が影をつくっている暗い谷へと入ってゆき、消えたと信じた彼の魂に祈りを捧げた。その谷で恋人を見つけ、また幸福を見出したのだから、ここはまるでエデンの谷かと思われるのだった。
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