2010年12月4日土曜日

クライスト(1)

クライストの手紙

1.概要

 現存する256通のクライストの手紙の半分以上は、1802年春以前、すなわちクライストが文学を始める前に書かれたものである。したがって、1811年に自殺するまでの残りの9年間の、作品を書き始めたクライストについては、非常に限定的な形でしか窺い知ることができない。

 それでもしかし、重要な書簡は数多くある。以下に紹介するのは、クライストが当時の婚約者(のちに婚約は破棄)ヴィルヘルミーネ・フォン・ツェンゲに書き送った書簡の抜粋である。おそらく婚約者への手紙とは思われないであろう。クライストはルソーを読むように勧めるなど、婚約者の「教育」に熱心だった。以下の「思考訓練」は、単に伝記的な価値をもつのみならず、クライストの作品を読むためにも非常に有益なものである。


2.「ヴィルヘルミーネ・フォン・ツェンゲのための思考訓練」
(Denkübungen für Wilhelmine von Zenge, 1800)

<1>

①自分自身でもしてしまう誤りを他人に対して叱責すると、しばしば以下のような反応を耳にする。「君自身がうまくやれてないのに、他人を叱責するのか。」わたしからの問いは以下の通り。ひとは自分がしてしまう誤りを他人に対して叱責してはならないのだろうか。

②「正当化」と「謝罪」の違いは何か。

③夫と妻の両方が、本性に応じてできることを互いのためにし合っているとき、一方が先に死ぬとより多くを失うのはどちらか。

④妻が夫の敬意と信頼を獲得したとしても、興味をかきたてないことがある。妻は何を通じて夫の興味を勝ち取りまた維持することができるか。


<2>

問:「尊敬に値する」妻は、だからといって「興味深い」とは言えない。妻は何を通じて夫の「興味」を獲得し、維持することができるか。


<3>

問:短い間幸せであったのと、一度も幸せでなかったのとでは、どちらがより望ましいか。


<4>

①夫が「暴力という武器」を用いて凶暴な「強者の権利」を妻に対して行使する場合、妻も夫に対して、「弱者の権利」と呼べるような、「柔和という武器」を用いて主張できる権利をもつのではないか。

②人間を互いにより強い信頼の絆で結ぶものは、「美徳」か「弱さ」か。

③妻は夫以外の「誰にも」気に入られてはならないのか。

④「どのような」嫉妬が婚姻の平和を乱すのか。


<5>

問:

①ひとは他人がもつ誤った基本原則を、それがどのようなものでも打破してよいのか、あるいはその基本原則にその人間の平穏が左右されるような場合、その原則が無害なものなら、耐え忍び、尊敬しなければならないのではないか。

②ひとは他人に対して常に断固たる厳しさで義務の履行を要求してよいのか、あるいはその者が常に義務を認識し、それを履行する意志を失ってないだけで満足できないか。

③人間は、正しいことはすべて行為してよいのか、あるいは自分の行為がすべて正しいだけで満足しなければならないのではないか。

④ひとはこの世界で、完全なものを現実につくり出そうと努力してよいのか、あるいは現在あるものをより完全にしていくだけで満足しなければならないのではないか。

⑤善良であることと善良に行為すること、どちらがより善良か。


3.

 「思考訓練」をすること、そのために数多くの「問い」を提出することは、クライストが戯曲でも小説でも雑誌や新聞でも行い続けたことである。

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