2010年12月11日土曜日

クライスト(2)

短編小説「決闘」(Der Zweikampf)

1.あらすじ

短編のわりに非常に複雑な話だが、最終的には決闘があって、すべての案件が解決する。


2.メモ

・たしかに最後は「決闘」にいたるが、基本的には「書類」、「相続」、「裁判」を巡る物語で、他の作品と比較すべき点が多い。物語はまず、嫡出子が死んでしまったので私生児を後継者としてドイツ皇帝に認めてもらうLegitimationsakteという書類の問題から始まる。それが公位継承の問題につながる。公位継承Thronerbeはドイツ語では相続Erbeの一つである。ところで、遺言(これは話された言葉)によるこの相続は、例外的な、本来的には「法に逆らった」ものである。さて、公爵の命を奪った矢についての供述書Erklaerungも書類である。さらに公爵夫人から赤髭伯へのBitteも手紙=書類。ちなみに赤髭伯はこれを「二度読む」。「二度読む」のは『ホンブルク』にも登場する行為。赤髭伯は友人の騎士たちに書簡Schreibenを書き送るし、裁判を起こすためにはドイツ皇帝にAktenstueckeが送付される。リテガルデの父親は裁判所からの手紙が原因で死ぬ。リテガルデはトロータに別れの手紙を送っていた。裁判所からの出廷命令Anzeige。リテガルデの兄たちは少しでも多くの遺産がほしいので、リテガルデを追いやる。ここにも「相続」の問題。地位の相続と大地の相続。また、牢獄の中からのリテガルデの手紙Zuschrift。

・この作品でも「民衆」のポジションが重要になっている。赤髭伯は民衆の支持を得ているため、公爵夫人も下手な手を打てない。民衆を刺激すると危険であるという認識のもとで行動している。あらためてクライストにとって民衆とは何だったのか? クライストには「民意」という観念が明らかにある。

・「文字によるコミュニケーション」は「民衆の声」と対置されているのだろうか。

・裁判=戦争。争いという単純な意味でも。決闘を行うことになるフリードリヒ・フォン・トロータは、最初、物語の語り手によってAnwalt弁護士と呼ばれている。書類から剣へ。事実の解明から神の判決へ。理性から理性を超えたものへ。裁判と決闘の共通点は、それらは両方とも「演劇」である、ということ。罪を告白した赤髭伯が、それにもかかわらず最後に焼かれるのもまた「演劇」である。

・「調書」のような文学。調書だからこそ、一貫性のなさもそのままに保たれる。赤髭伯の性格はちっともつかめない。冒頭では人格者のように描かれながら、最終的にはひどい男だったことになる。

・裁判における書くことと話すこと。判決は書類(書くこと)でもあり宣告(話すこと)でもある。たとえばFreisprechungという単語。

・フリードリヒは一度目の決闘では引き下がらない。すなわち「再審」を求める。再審制の思想。他方、一つの裁判に別の裁判が接続することによって物語は終わる。

・さまざまな敵対関係(Feindschaft)。物語の発端は、異母兄弟Halbbrueder間の不和である。半分の兄弟。なぜクライストにはこれほどまでに父‐母‐子の不整合が登場するのだろう? クライスト自身も異母きょうだいがいたという事情も考慮すること。

・「落下」としての運命。大地Erbeは同時に「現世」であること。大地に落ちることは現世にまみれることでもある。言葉が近代社会とキリスト教的伝統の両方を意味していて、その二重性がとても重要なことがある。

・この作品でも信頼Vertrauenが問題になっている。要は「党派的であることを恐れないこと」「信じたいものを信じきること」が問われる。

・名前の共通性。フリードリヒ、クニグンデ。

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