2010年11月13日土曜日

クライスト(4)

戯曲「公子フリードリヒ・フォン・ホンブルク」(Prinz Friedrich von Homburg, 1811)

1.あらすじ

公子フリードリヒ・フォン・ホンブルクは夢遊病。夜、意識なくさまよっているときに公女ナターリエと会ったことが夢か現実か自分でもわからない。ナターリエを見ながら思いに耽っていたため、軍事作戦会議で下された重要な指令も話半分に聞いてしまう。そのため戦闘では命令がないにもかかわらず敵を攻撃し、結果的にはそれが大勝利につながるものの、指令に背いたとして軍法会議にかけられ、死刑を宣告される。ホンブルクは恩赦を求めるが、「それでは自分に生じたことは不正だと思うか」と問われ、今度は逆に自ら進んで死を決意する。ナターリエの画策とホンブルクの部下たちの嘆願書にも関わらず、選帝侯フリードリヒ・ヴィルヘルムは死刑を撤回しないが、最後はホンブルクの言葉と彼の部下たちの支持によって判決を破棄し、ホンブルクは勝利をもたらした英雄として讃えられ、一同は次なる戦場へと向かう。


2.メモ

2.1 重要

・ひとつの法、ひとつの秩序を形式的に守ったために他の法や秩序が動揺をきたしてしまうとき、どうすればよいのか。「選帝侯」は「テュニスの頭目」とは違う、というセリフの意味。とりわけ、「法」と「正義」が衝突するときの調整。法の遵守が反逆を生み出してしまうとき、その法に固執すべきなのか? 秩序の柔軟性と硬直性はどのようなバランスを見出すべきか。「国家の秩序」をどうつくるか。その思考実験として、ホンブルクを「犯罪者にして英雄」という「ホラティ人」的人物にしている。

・「書くこと」というテーマ。ホンブルクは軍事作戦のディクテーションに失敗する。「命令」を「書き写す」ことによって「計画」を「身体化」できない。いわく、自分が「分裂する(geteilt)」。しかしこの身体化こそ官吏や職業軍人といった「近代人」の条件。軍隊の識字率の問題も見えてくるか(Vgl. 「こわれがめ」)。「書くこと」のテーマは最後まで続く。すなわち、死刑判決、選帝侯による判決文への署名、ナターリエの手紙、恩赦についての手紙、軍人たちの請願書。しかし戯曲は最後は「全員」の「声」で終わる。

・さまざまな対立。「言葉の命令 Order」と「心で感じる命令」、「偶然」と「計画」。近代化とは「偶然の除去」(リスクの計算)か。ProzessとPlanの相違。「戦略」「軍事作戦」とは何か。「法」と「勝利」。いわく、法は「勝利の一族」を生むが、一度の勝利は単なる「偶然の子供」である。また、SiegとTriumphの対立。

・「法」と「裁判」は別々に考えるべきだ。

・最上位の法は書字Buchstabではない、というナターリエの発言。それは「祖国」である、と。

・「主人公」がいない。ホンブルク、ナターリエ、選帝侯、それぞれ中心になる部分はあるが、「主人公」ではない。

・ホンブルクは「成長」したのか。おそらく「成長」ではない。弁証法的なものはない。むしろ「性格」が破綻している。「わたし」は不安定である。

・「主権」の問題。主権は動揺しているのか。選帝侯は、最後の決断をもはや自分で下さず、ひとびとに委ねている。

・ヘーゲルの「歴史」が拒む「歴史」をクライストはもっているのか。

・ヴォルフ・キットラーの指摘。ホンブルクの部下たちが上官に示す忠誠は「古い」、国家=選帝侯に示す忠誠こそ「新しい」。しかし他方で、ホンブルクの臨機応変な軍事行動は「新しい」、選帝侯の軍事作戦は「古い」。この交差、あるいは混淆にクライストの考え方がある。あらゆるレベルで新しい時代が到来すればよいのではない。


2.2 他の作品と共通する要素

・「予知夢」→「こわれがめ」

・夢(無意識)の状態の方が覚醒した状態よりも多くを知っている。夢のなかで呼んでいた名前を目覚めると忘れている。

・Fallen(落下)。ホンブルクは「落馬」する。

・「熊」

・「養子」

・Trieb(情動)。そのために話を聞かない。

・ひとの「群れ(Schar)」。「チリの地震」などと比較せよ。

・結末部分は夢の実現? 円環の完成? あるいは仮死の通過儀礼?

・分身。結末部分の「花」の誤解。夜/昼、死/生の二重性を示している(Vgl. Handbuch)。


2.3 その他

・「不死 Unsterblichkeit」とは何か。

・前半のテンポの良さと後半の細部の長さが対照的。

・これまでのクライスト研究は「人物」をみて失敗している。むしろ「構造」を読むべきなのに。

・多くの秘密と謎と投げかけているとされるテクストだが、むしろ「秘密は何もない」という読み方が重要。

・課題は、カント、アダム・ミュラー、17~18世紀の演劇理論、クライストにおけるジャーナリズム。

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