ハインリヒ・フォン・クライストによる物語「チリの地震」(11)
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――怒り狂ったかたまりは、ヘロニモの発言に混乱し、立ちすくんだ。複数の手がドン・フェルナンドを離した。まさにこの瞬間、重要な地位にあるさる海軍将校が急いで近づいてきて、この騒ぎを突き抜けながら訊ねた、ドン・フェルナンド・オルメス! きみたちに何が起こった?
いまや完全に解放されたドン・フェルナンドは、真に英雄的な落ち着きをもって答えた、「ああ、見てくれ、ドン・アロンゾ、この殺戮のしもべたちを! わたしにはどうしようもなかった、もしこの威厳溢れる男性が、狂った群れを鎮めるために、ヘロニモ・ルヘラだと名乗ってくれなければ。きみが善意を尽くしてくれるなら、彼を逮捕してくれ、この若い婦人も一緒に、二人の安全が確保されるように。そしてこの無に値する男も逮捕してほしい」とペドリーリョ親方を捕まえて、「彼がこの暴動全体を煽動したんだ!」
靴屋は言った、ドン・アロンゾ・オノレハ、あなたの良心にかけてお尋ねします、この娘はホセファ・アステロンじゃありませんか? このときホセファをよく知るドン・アロンゾが返事をためらい、そのため複数の声があらためて怒りに燃え、この女だ、この女だ! この女を死刑にしろ! と叫んだので、ホセファはこれまでヘロニモが抱いていた小さなフィリップを、小さなホアンとともにドン・フェルナンドの腕にあずけ、言った、行ってください、ドン・フェルナンド、あなたの二人のお子さんを救ってください、わたしたちのことはわたしたちの運命にゆだねてください!
ドン・フェルナンドは二人の子供を受け取り、言った、わたしは、自分の集まりに危害が加えられるのを許すくらいなら、むしろ死にます。彼はホセファに、海軍将校の剣を借りると、腕をさしのべ、後ろの二人にもついてくるよう求めた。彼らは実際、こうした公共施設では敬意を払われ場所をあけてもらえたので、教会の外まで出た、そして救われたと思った。
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