ハインリヒ・フォン・クライストによる物語「チリの地震」(10)
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ヘロニモの腕につかまったまま震えながら、ドニャ・コンスタンツェが言った、ドン・フェルナンド! しかし彼は激しくひそやかに、二つが結びつくように答えた、「黙ったままで、ドニャ、眼球も動かさず、気絶して沈んだようになさい、それを合図にこの教会を出ます。」
しかし、ドニャ・コンスタンツェがよく練られたこの救出策を実行するより先に、一つの声が叫びを上げ、司教座聖堂参事会員の説教を大声で中断した。離れろ、サンチャゴ市民、ここにその神を冒涜した人間たちが立っている! するともう一つ別の声が、恐怖に満たされ、周囲に驚愕の輪を生みつつ、訊ねた、どこだ? ここだ! と第三の者が応え、神聖な卑劣さに満たされ、ホセファの髪を掴んで引き倒そうとしたので、ドン・フェルナンドが押さえてなければ、ホセファはよろめいて彼の息子ともども地面に倒れるところだった。
あなたたちは気が狂ったのか? と青年は叫び、ホセファの体に片手をまわした、「わたしはドン・フェルナンド・オルメス、あなたたちみなが知るこの町の司令官の息子だ。」ドン・フェルナンド・オルメス? と言ったのは、彼のすぐ前に立ちふさがった靴職人だった、彼はかつてホセファのために働いたことがあり、ホセファのことを少なくともその小さな両足と同じくらいよく知っていた。
この子の父親は誰だ? と彼は生意気な反逆を見せながらアステロン家の娘に言った。ドン・フェルナンドはこの問いに蒼ざめた。彼はためらいがちにヘロニモを見たり、自分を知る者がいないか集会を見渡したりした。恐ろしい状況に強いられてホセファは言った、この子はわたしの子ではありません、ペドリーリョ親方、あなたが思っていることは違います。彼女は魂の無限の不安を感じつつ、ドン・フェルナンドを見ながら言った、この若い方はドン・フェルナンド・オルメス、あなたたちみなが知るこの町の司令官の息子です!
靴屋は訊ねた、市民諸君、あなたたちのなかにこの若い男を知っている者はいるか? すると周りの幾人かが反復した、ヘロニモ・ルヘラを知っている者はいるか? いたら出てきてくれ!
このときたまたま、全く同じ瞬間に、小さなホアンが騒ぎに驚き、ホセファの胸を離れてドン・フェルナンドの腕に入りたがった。これを見て、あの男が父親だ! と一つの声が叫び、あの男がヘロニモ・ルヘラだ! と別の声が叫び、あの二人が神を冒涜した人間だ! と第三の声が叫んだ。石を投げろ! 石を投げろ! イエスの神殿に集うキリスト教徒よ! すると今度はヘロニモが叫んだ、やめろ! 非人間的な者たちめ! あなたたちがヘロニモ・ルヘラを探しているならここにいる! 無実のその男性を解放しろ!
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