ハインリヒ・フォン・クライストによる物語「チリの地震」(12)
しかし彼らが、同じように人に満ちた教会前広場へ踏み入るやいなや、追いかけてきた狂ったかたまりの中から一つの声が叫んだ、これがヘロニモ・ルヘラだ、市民諸君、なぜならわたしが父親だ! そして声は、ドニャ・コンスタンツェのわきにいたヘロニモをすさまじい棍棒の一撃で地面に打ち倒した。イエスさま、マリアさま! とドニャ・コンスタンツェは叫び、義兄のもとへ逃げた、しかし、修道院の娼婦め! という声が別の方から響きわたり、それとともに第二の棍棒の打撃が、彼女をヘロニモの隣に投げ倒し命を奪った。なんてことを! と見知らぬ男が言った、これはドニャ・コンスタンツェ・クサレスだったのに! どうして彼らはわたしたちをだました! と靴屋が応えた、正しい女を見つけ出して殺そう!
ドン・フェルナンドはコンスタンツェの死体を目にすると怒りに燃え上がった。彼は剣を抜き、振るい、打ち込んだので、この男、惨状のきっかけとなった殺人狂は、二つに切断されそうだったが、向きを変えて怒りの一撃をかわした。しかしドン・フェルナンドは押し寄せる群れに力でまさらなかったので、さようなら、ドン・フェルナンド、子供たちとお幸せに! とホセファは叫び、さあ殺しなさい、血に飢えた虎たち! と言って自由意思で彼らのなかへと飛び込み、この戦いに終わりをつけようとした。ペドリーリョ親方が彼女を棍棒で殴り倒した。そして飛び散った彼女の血を浴びたまま、その私生児も母親の後追いで地獄へ送ってしまおう! と叫ぶと、いまだ満たされぬ殺人欲でふたたび迫ったのである。
ドン・フェルナンド、この神のような英雄は、いまや背中を教会にもたせかけ、左手に子供たちを抱き、右手に剣を握った。ひと振りするたびに稲妻のごとく一人ずつ地面に打ち倒し、獅子でもこれほど抵抗できはしまい。血を追い求める犬が七匹、彼の前に死んで横たわり、悪魔の群れの王も傷を負った。しかしペドリーリョ親方は休むことなく、ついには子供たちの一人の足を掴んで胸から引き剥がすと、頭上で輪を描くように振り回し、教会の柱の角で潰してしまった。するとあたりは静まりかえり、すべてが遠ざかった。ドン・フェルナンドは、自分の小さな息子ホアンが目の前に横たわるのを見た。頭からは脳髄が流れ出ていた。彼は名前のない苦痛に満たされ、空を見上げた。
海軍将校が戻ってきて彼を慰めた。また、今回の不幸において何もしなかったことは、いくつかの事情から正当化されることではあるが、わたしはそれを後悔することになるだろう、と確言した。しかしドン・フェルナンドは、君が非難されることは何もないと言って、ただ今から死体を運ぶのを手伝ってほしいと頼んだ。死体はすべて、訪れつつある夜の闇の中を、ドン・アロンゾの住まいへと運ばれた。ドン・フェルナンドも、死体のあとを、小さなフィリップの顔の上でたくさんの涙を流しながら、ついて行った。
その日はドン・アロンゾの住居に泊まり、そして彼は長い間、偽りの演技をしながら、妻に不幸の全容を教えることをためらっていた。あるときは彼女が病気だから、またあるときは彼女がこの出来事における彼の態度をどのように判断するかわからないから、と言うのだった。しかしその後まもなくして、とある来客によって偶然にも、起こったことがすべて知らされると、この優れた婦人は黙ったまま、母としての苦痛を泣き尽くし、輝く涙をひとしずく残したまま、ある朝、彼の首もとに落ちてきて、彼にキスをした。ドン・フェルナンドとドニャ・エルヴィーレは、その後あの小さなよその子を里子として引き取った。ドン・フェルナンドは、フィリップをホアンと比べ、また二人の子供をどのように獲得したかを比べるたびに、自分はほとんど喜ばなければいけないくらいだと思うのだった。
[終]
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