2010年11月16日火曜日

クライスト(5)

日刊紙「ベルリン夕刊新聞」(Berliner Abendblätter, 1810.10 – 1811.3)

1.概要

クライストが一人で編集・発行人として毎日夕方に販売した夕刊紙(日曜を除く)。ベルリン中心部の飲食店で購入できたほか、郵便による配達や書店を通じての購読も可能だった。ドイツ語圏における最初の日刊紙の一つとして歴史的意義も高い。第一期は出版人ヒッツィヒのもとで、第二期はクーンのもとで発行された。新聞が半年で挫折したのは、検閲が厳しくなり、内容が制限され、商業的な成功を収められなかったためといわれている。


2.特徴

クライストの「ベルリン夕刊新聞」の最大の特徴は、現在の「新聞」という概念からは想像もつかないような「テクストの混在」が見られることである。「ベルリン夕刊新聞」は、警察発表をそのまま紙面に載せたことで「犯罪」をジャーナリズムの本質的要素として導入したとされるが、それ以外にも、ほとんど寓話のような記事(幽霊が出たという話題など)や、連載小説、芸術批評、演劇批評、手紙の形式をとった論考、いわゆるニュース、さらには詩などが並置されていた。どこまでが事実で、どこからがフィクションなのか、読者には明確にわからないこともあったはずである。なお、クライストは、他の新聞や雑誌に掲載された記事に自ら手を加えて自分の新聞に転載することも多かった。


3.メモ

・クライストの創作は必ず資料とともに始まる。パロディも多い。「こわれがめ」は聖書とソフォクレス、「アンフィトリュオン」はモリエール、「公子ホンブルク」は史実であり、短編小説も歴史や伝説に題材をとったものが多い。そう考えると、クライストが新聞を発行して警察発表をそのまま載せたり、あるいは他の新聞雑誌の記事を「改作」して掲載するということは、クライストの創作原理を明確に示しているとさえいえる。

・新聞はドイツ語でZeitung。そこにZeitがあること。Zeitは「時代」だけでなく「時間」。Zeitungの語源は「ある特定の時間に生じた出来事」らしい。そこから「ある出来事についての知らせ、報告」となり、そうした「報告の集合」を意味するようになった。クライストの新聞はそのかつての語義に近い。

・事実と虚構の区別がつかない新聞。当時の読者はそれをいかに受容していたのか。「事実と虚構の区別がつかない」ことを問題にするのはむしろ今日的視点なのか。「事実」や「虚構」という概念自体がクライストにおいて検討されなければならない。「事実」と「虚構」の区別など知らなかったのかもしれないとさえ思える。

・「事実と虚構」問題は、クライストの認識論(意識論)ともつながる。「事実」などというものを知ることはできるのか。「虚構」と区別されるような「事実」を知ることが重要なのか。むしろそうした区別の溶解したところで考えたり行動したりすることが必要なのではないか。クライストのカント。

・偶然、分身、揺らぎ、秩序といったクライスト作品の問題系は彼の新聞にも現前している。他人の書いた記事の「分身」をつくって自分の新聞に掲載していた。秩序の揺らぐ偶然の新聞。

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