ハインリヒ・フォン・クライストによる物語「チリの地震」(9)
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50歩も歩かないうちに、これまで激しくひそかにドニャ・エルヴィーレと話していたドニャ・エリーザベトが、ドン・フェルナンド! と叫ぶのが聞こえ、落ち着かない足取りで急いで列を追いかけてくるのが見えた。ドン・フェルナンドは立ち止まり、振り返った。彼女が近づいてくるのを待ち、ホセファから身を離さないまま、訊ねた、というのも彼女が、まるで彼のほうから近づいてくるのを待っているかのように、いくらか離れて立ち止まったのである。どうした? ドニャ・エリーザベトはそう言われて彼に近づいた、抵抗感があるようだった、そして彼に、しかしホセファには聞こえないように、二言三言そっと耳打ちした。それで? とドン・フェルナンドは訊ねた、そこから生じるかもしれない不幸というのは? ドニャ・エリーザベトはその先を、取り乱した顔の彼の耳にささやいた。ドン・フェルナンドの顔に怒りの赤が昇った。彼は答えた、もういい! ドニャ・エルヴィーレには落ち着いていてほしいと伝えてくれ。そして彼は、彼の婦人をそのまま先へと導いた。
彼らがドミニコ会の教会に着いたときには、すでにオルガンが壮麗な音楽を聴かせ、計り知れないほどの人の群れが建物の中で波打っていた。この雑踏は教会の入口前の広場まで伸びていた、壁沿いに高く掛けられた絵画の額縁には少年たちが腰かけ、期待に満ちた目をしながら手には小銭を握っていた。すべてのシャンデリアから光が注ぎ、柱は夕暮れのはじまりとともに謎めいた影を投げ、一番奥の巨大なステンドグラスの薔薇窓はそれを照らす夕陽そのもののように赤く燃え、そしてオルガンが沈黙すると、静寂が集会を支配した、誰一人、一つの音さえ胸にもたないかのようだった。かつていかなるキリスト教の大聖堂であっても、今日のサンチャゴのドミニコ会大聖堂ほど情熱の炎が天に向かって上がったことはなかった。そしてどんな人間の胸よりも暖かい火をそこに加えていたのは、ヘロニモとホセファの胸だった!
聖祭は説教で始まった、最長老の司教座聖堂参事会員の一人が礼装をまとい、説教台から執り行った。彼は、ゆったりと流れる上着に包まれた震える両手を高く天に上げながら、すぐに称讃、讃美、感謝を捧げ始めた、世界の中でこのように崩壊し瓦礫と化した部分でも、人間は神に向かってどもりながら話しかけることができるのです。彼は述べた、全能の者の合図一つで何が起こったことでしょう。最後の審判もここまで恐ろしくはないでしょう。しかし彼が、昨日の地震を、にもかかわらず、大聖堂が受けた一つの亀裂を指差しながら、最後の審判の前触れに過ぎなかったと名指したとき、集会全体に戦慄が走った。続けて彼は、聖職者の雄弁術の流れに乗って、この町の風紀の乱れに触れ、ソドムとゴモラでさえ目にしなかった残虐行為の数々を非難し、ひとえに神の無限の寛容のおかげで地震によっても町は完全には壊滅しなかったのですと述べた。
しかしこの説教によってすでに完全に引き裂かれていたわたしたちの不幸な二人の心が、まるでナイフに貫かれてしまったのは、司教座聖堂参事会員がこの機会を捉えて、カルメル派修道院の庭で犯された瀆神行為に詳細に触れたときだった。彼はこの瀆神行為が現世で受けた寛大な措置を神をなみするものと名指し、呪いの言葉で満たして話をわきにそらしながら、その行為者たちを文字通り名指し、その魂を地獄の悪魔たちに引き渡してしまったのである!
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