今月はドイツ語学習に役立つ参考書・辞書の名作を少しずつ紹介したい。
おそらく現在、ドイツ語を本格的に学ぶひとは、どんな教科書であれとにかく初級文法をひととおり終え、そこからさらに実力を伸ばすために参考書や辞書を物色するようになる、と思われる。実際、わたし自身も大学1年の時に使用した教科書がなんだったのか覚えていないが、その後の「修行時代」に意識的に選択したものは、すべて深く記憶している。
したがって今日では、「1冊目は何でもよい」ということが一般的に言えるだろう。あるいは、そんなことを意識もしないうちに過ぎ去ってしまうもの、それが1冊目だ、ということか。
それでもしかし、初学者がたった1冊で学ぶならベストな本は何か、という問いは理論的に残る。
この問いに対し、わたしは関口存男『入門 科学者のドイツ語』を推す。これは1冊での完成度という点ではおそらく最強のドイツ語教材である。
なにがそれほどすごいか。
まず、説明が簡潔で、読みやすい。無駄なことが書かれてない。しかし他の参考書には書いてないような重要なポイントが押さえられていて、ドイツ語の深さが不意に垣間見える。さらに文法、文例、文章読解のバランスがすばらしい。初級文法を学びながらこれほど文章を読ませてくれる参考書はまずない。
そして何よりも、その書名が示すように、内容面で科学を多く扱っている。日本のドイツ語参考書はそのほとんど(すべて?)が文学部や外国語学部出身の教師が書いており、内容があまりにも文系に偏っている。せいぜい新聞記事や政治家の演説が使われる程度で、科学、技術、法律などはほとんど扱われない。この点においても画期的だ。文章読解には「円とは何か」「ターレスの定理」「自然科学的認識」「生命とは何か」など興味深い話題が多い。
唯一残念なのは、接続法が扱われてないことだ。これだけは類書で補うしかない。
それでも、1冊で、無理なく、簡潔に、しかし知的好奇心を刺激し、ドイツ語の深淵をのぞかせながら学習を助けてくれる参考書はこれしかないだろう。1960年に三修社から出版された新装版が絶版になったのは本当に残念だ。大学図書館を利用できる方はぜひ探してみてほしい。
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