クライストは戯曲7本、小説8本を遺した。その15作品でOrdnung秩序という単語を使用したのは34箇所(Anordnung, Verordnung, Schlachtordnung等の派生語、合成語を含む)。最多は小説「ミヒャエル・コールハース」の11回、それ以外に飛び抜けて頻出する作品はない。主な使用例は以下の通り。作品の成立順に引用する。引用の翻訳に際してはOrdnungという語の用法を示すため、いわゆる自然な日本語には留意しない。
引用1:
『シュロッフェンシュタイン家の人々』
オトカール:(彼女の言葉を遮って)こうなると
水かさを増した春の大河のように、
節度も秩序もない感情Regung ohne Maß und Ordnungが湧き上がってくる。
引用2〜4:
『こわれがめ』
ヴァルター:
ただの無秩序Unordnung、乱雑さと思われたことが、
横領のように見え始めてきました。
横領となっては、ご承知のとおり、もはや法律は見逃してはおきません。
ヴァルター:
静まれ! この場に無秩序Unordnungを引き起こす者は―
ヴァルター:
無作法な者め ― わたしのいるこの場には秩序をもたらせSchafft hier mir Ordnung!
引用5:
『ペンテジレーア』
アマゾン族の女1:
あなた方をアルテミスの神殿へ? どういうことです?
冥い樫の森へとお連れします、そこではあなた方を
節度も秩序もない歓びEntzücken ohne Maß und Ordnungが待っています!
引用6〜9:
「ミヒャエル・コールハース」
妻は言った、これからも多くの旅人が、あるいはあなたより我慢のきかないひとたちがあの城を通ることでしょう。あのような無秩序Unordnungを止めることは、神の御業に等しいことです。裁判Prozessを行うのに必要な費用はすぐにわたしが用意しましょう。
このような恐るべき無秩序Unordnung状態にある世界を目にして、彼[コールハース]は苦痛に貫かれたが、そのただ中で、内面的な満足が震えるように沸き上がった。今や自分自身の胸中が秩序Ordnungのうちにあることを見出したからだった[覚悟が決まったからだった]。
彼[コールハース]はこの折に撒いた布令のなかで、自ら称して「この係争Streitsacheにおいてユンカーの党派につくすべての者が全世界を陥れた奸計に対し、火と剣で刑罰を与える主天使ミヒャエルの代理人」と名乗った。その際彼は、奇襲で奪い居城と定めたリュッツェン城から、事物のよりよき秩序eine bessere Ordnung der Dingeを創設するために仲間に加われと、民衆Volkに向かって呼びかけた。
国家の秩序Ordnung des Staatsは、この男[コールハース]との関係において、法学Wissenschaft des Rechtsの原則によって整復するeinrenkenのが困難なほど狂わされてしまったverrückt。
引用10:
『ホンブルクの公子フリードリヒ』
4幕1場
ナターリエ:
むしろ、軍隊で育ったあなたが
無秩序Unordnungと呼ぶもの、すなわちこの件に関する
裁判官たちの判決Spruch der Richterを恣意的に引き裂く行為の方が
わたしには最も美しい秩序die schönste Ordnungと思われます。
軍法が支配するのは当然のことと知っています。
しかし愛すべき感情もまた支配すべきです。
これらの例から、彼がOrdnungという言葉をどのように使っていたのか、いくつかのことが明らかになる。
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