2011年5月1日日曜日

ドイツ語(1)

 ドイツ語授業の一つで、阿部賀隆『独文解釈の研究』を使っている。1961年に初版が出版された問題集だが、その密度において現在も比類なき一冊である。近年書店に並ぶ参考書の類はあまりに内容が薄くて逆に効率が悪い。わたしは学部2年のとき、和泉雅人教授がこの本をやれと言うのを聞いて、初級文法を終えたばかりだったが手にとった。この問題集の有名な第1問は、日本語訳で「世の中のことが思いどおりにゆくようになどと願わず、むしろ生起するいっさいのことが、生起するがままに自然に生起するようにと望め。そうすれば君は幸福になるであろう。」というもので、19歳の夏休みに「うーむ」とか言いながら取り組んだのである。最近ではこんな文章を使った参考書はまずない。非常に苦しんだが、くだらない参考書を何冊も読まずに済んで、結果的によかったと断言できる。

 さて、今回この『独文解釈の研究』の問題10番がわからないという連絡を受けたので、ここに簡単な解説を掲載する。解説は簡単な方がいい。問題も実は簡単だからである。ちなみに上記第1問もそうだが、この問題集にはなかなかすごい内容の文章が多数含まれている。以下の第10問などはその典型であろう。

 以下を読んだ上で不明な点があれば、コメント欄に書き込むかttkhys@gmail.comまでご連絡いただきたい。

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Unser ganzes Volk müssen wir erziehen, dass immer, wenn irgendwo einer bestimmt ist zu befehlen, die anderen ihre Bestimmung erkennen, ihm zu gehorchen, weil schon in der nächsten Stunde vielleicht sie selbst befehlen müssen und es genau so nur dann können, wenn andere wieder Gehorsam üben.

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<解説>

「Unser ganzes Volk müssen wir erziehen, dass…」
→ 「わたしたちの民族全体 Unser ganzes Volk を、わたしたちは wir 、以下のように dass 教育しなければならない erziehen müssen 、すなわち…」

「immer, wenn irgendwo einer bestimmt ist zu befehlen」
→ 「どこかで irgendwo 誰かが einer 命令することを zu befehlen 定められている bestimmt ist ときは常に immer, wenn」

「die anderen ihre Bestimmung erkennen, ihm zu gehorchen」
→ 「それ以外の者たち全員が die anderen 、彼[命令する者 einer]に従う ihm zu gehorchen という自らの使命 ihre Bestimmung を認識する erkennen ように[そのように教育しなければならない]。」

「weil schon in der nächsten Stunde vielleicht sie selbst befehlen müssen」
→ 「なぜならば weil 、次の瞬間にはもう schon in der nächsten Stunde ひょっとすると vielleicht 彼ら[命令者以外の人びと die anderen]自身が sie selbst 命令しなければならない befehlen müssen かもしれず、」

「und es genau so nur dann können」
→ 「そのこと es [命令]を正確にそのまま genau so [命令の内容通りに]やり遂げることができる können のは、以下の場合だけ nur dann だからである、すなわち…」

「wenn andere wieder Gehorsam üben.」
→ 「他の者たち andere の方でも wieder 服従してくれる Gehorsam üben とき wenn である。」


<全訳>

わたしたちは、わたしたちの民族全体を以下のように教育しなければならない。すなわち、どこかで誰かが命令を発するよう定められたら、その者以外の全員は、常に服従を自らの使命と認識するように。なぜなら、次の瞬間には彼ら自身が命令せねばならぬかもしれず、彼らがそれを正確にやり遂げうるのは、他の者たちが服従するときだけだからである。


<ポイント>

・前半は dass の副文の中に wenn の副文が入っている(入れ子になっている)のでわかりづらい。 dass の副文の主語は die anderen 、動詞は erkennen である。
Unser ganzes Volk müssen wir erziehen, dass immer [, wenn irgendwo einer bestimmt ist zu befehlen,] die anderen ihre Bestimmung erkennen, ihm zu gehorchen,

・後半は sie や es が何を指しているのか、また sie や es が何格かわかりづらいが、動詞の形やそれ以前の名詞を点検すれば可能性は自然と絞られる。
weil schon in der nächsten Stunde vielleicht sie selbst befehlen müssen und es genau so nur dann können, wenn andere wieder Gehorsam üben.

・die anderen は「他の者たち全員」、 andere は「[不特定多数の]他の者たち」。英語にも同様の表現がある。

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